第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
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(……あー、もう。窮屈で死にそう)
窓際の席から、教室内をぐるりと見渡した。
「ふふっ、それでね……」
「まあ、素敵」
休み時間の教室は、どこからどう見ても完璧な『お嬢様たちのお茶会』だ。
大声で笑うヤツなんて一人もいない。
誰もが、作り物みたいに綺麗な笑顔を貼り付けて、当たり障りのない会話をしている。
(のやつ、ちゃんとやってるかしら……)
窓の外へ視線を向ける。
あの子のことだ。
変に思い詰めて、一人で無茶をしてないか心配になる。
ただでさえ、天然で危なっかしいところがあるのに。
別のクラスになっちゃったのは、本当に痛手だわ。
「……釘崎さん?」
不意に、名前を呼ばれた。
「あ……はい。何かしら?」
振り返ると、クラスの中心グループにいる女の子が立っていた。
取り巻きを数人引き連れて、にこやかな顔でこちらを見ている。
「釘崎さん、放課後は何かご予定があるの?」
「いえ、特には……」
「よかった。では、私たちの華道部にいらっしゃいな」
「転校してきたばかりだと、何かと不安でしょう? 私たちと一緒にいれば、余計なことで困ることもありませんわ」
「ええ。この学校では、お付き合いも大切ですもの」
取り巻きの子たちも、揃って頷く。
(誘いというより、ほとんど決定事項みたいな言い方ね)
こういう女子特有のノリ、本当に疲れる。
でも……情報収集には、都合がいいか。
この学校の中心にいるような子たちなら、被害者のことも、表に出ない学校の噂も何か知っているかもしれない。
私は、顔に完璧な『お嬢様の笑顔』を貼り付けた。
「お誘い、ありがとうございます。……ぜひ、見学させてくださいな」
そう答えると、彼女たちは満足そうに微笑んだ。
「では、また放課後に」
優雅に会釈して去っていく後ろ姿を見送りながら、軽く頰をほぐす。
……慣れもしない外面を作ると、顔が疲れる。
ここまで愛想よくしてやったんだから。
この笑顔の分くらい、いい情報出しなさいよね。