第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
放課後。
案内された華道部の教室では、みんな優雅な手つきで花器に向かっている。
無駄なおしゃべりはない。
たまに「その花、素敵ね」と上品に微笑み合うくらいで、下世話な噂話なんて入り込む余地もなかった。
(これじゃ、探りようがないじゃないの……)
花を適当にいじりながら、盛大にため息をつきたくなるのをぐっと堪える。
(さっさと切り上げて帰ろうかしら)
そう思って枝に花鋏を入れた、その直後。
ガラッ、と華道部の教室の引き戸が開いた。
「すみません、遅れました……っ」
おずおずとした細い声と共に、一人の女子生徒が慌てた様子で入ってきた。
(……え?)
その姿に、私は思わず手元の花鋏を止めた。
華やかなグループの子たちとは少し違う、ひどく大人しそうな雰囲気。
じっと見つめているうちに、うっすらと記憶の奥底が刺激されて――
「真澄!?」
静まり返った華道部の教室に、思わずデカい声を響かせてしまった。
同時に周りの女子たちの冷たい視線が、一斉にこちらへ突き刺さる。
グループの中心にいた女子が、咎めるような目で私と彼女を交互に見た。
「……釘崎さん。お知り合い?」
「あー、えっとー……」
げ、まずい。
あんまり目立つ行動はしないようにしてたのに。
「……私は、存じ上げません」
私が答えるより先に、彼女がうつむきがちに首を横に振った。
そして、逃げるように空いている席へと足早に向かってしまう。
(は……?)
ちょっと待ちなさいよ。
知らないって、何よ。
問い詰めたい気持ちが一気に込み上げたけれど、周りの冷たい視線に気づいて、ぐっと飲み込む。
ここで騒いだら、完全に悪目立ちだ。
「あ、あら……おほほほ……っ。いやだわ私ったら、知り合いとそっくりで、つい勘違いしてしまいましたわ」
無理やり笑って誤魔化しながら、私も自分の席へ座り直した。