第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
外には私と伊地知さんだけが残された。
落ち着かずに周りを見回すと、規制線の向こうでは警察官たちが慌ただしく動き回っている。
その中で、何もできずに立っている自分だけが、ひどく場違いに思えた。
ふと、すぐ近くに立つ刑事たちの会話が耳に入った。
「……あいつら、一体何者なんですか?」
不満を隠しきれない、若い刑事の声だった。
「なんで鑑識が入る前に、得体の知れない連中を現場に上げるんですか。だいたい、あんな子供まで連れて……」
「馬鹿野郎、声がでかい」
それを嗜めるように、さっき私たちを通してくれた刑事さんが声を落とす。
「上からの絶対の命令だ。俺も、あいつらの正体なんて詳しくは知らねえよ」
そして、忌々しそうに、ちらりとブルーシートへ視線を向けた。
「でも、お前もさっき見たろ。あの仏さん。あれは、俺たち警察の手におえる事件じゃない。……完全に、人の領分を外れてるよ」
その言葉に、思わず両手をぎゅっと握りしめた。
一体、あのブルーシートの中にどんな光景が広がっているのか。
想像しただけで、手足の先からじわじわ血の気が引いていくのがわかった。
♢
しばらくして、ブルーシートがばさりと捲られる音がした。
顔を上げると、先生たちがこちらへ歩いてくるところだった。
三人とも、入っていく前とはまるで違う。
言葉にしなくても、中で見たものがどれほど酷かったのか伝わってくるような、重い空気を纏っていた。
「伊地知、被害者の身元は?」
「は、はい……っ」
伊地知さんが慌てて、震える指でタブレットを操作する。
「被害者は、都内のはずれにあるカトリック系の私立女子校に通う生徒です」
「被害者の当日の足取りは、警察が調べています。……それと、五条さんたちに一つ報告が」
伊地知さんが、タブレットの画面をスワイプして先生たちに向けた。