第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
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「ごきげんよう、さん」
「あ……ご、ごきげんよう」
すれ違う生徒たちに会釈をして、私はふうっと小さく息を吐いた。
(……な、慣れない)
胸元で揺れる水色のリボンに、そっと指先で摘む。
真っ白なセーラー服はちょっとしたことで汚れそうで、着ているだけで肩が凝りそうだった。
(ここに潜入してから、今日でもう三日目か……)
窓の外には、手入れの行き届いた中庭が広がっている。
芝生も花壇もきちんと整えられていて、季節のいい時期に外でお茶でもしたら楽しいだろうな、なんて。
場違いなくらい呑気なことを、つい考えてしまうほど。
(……おかしいくらい、静かだ)
生徒が一人、あんな死に方をしたというのに。
何事もなかったみたいに、みんな普通に過ごしている。
触れないようにしているのか、本当に知らないのか、それすらわからない。
どこを見ても、あのおぞましい事件の影なんて微塵も感じられなかった。
私と野薔薇ちゃんは、「親の都合で転校してきた生徒」という体でこの女子校に潜入した。
野薔薇ちゃんとはクラスが別で、正直ちょっと心細い。
この学校に潜入する前、高専で野薔薇ちゃんと確認した作戦を思い返した。
『いい、。とにかくまずは情報収集よ』
野薔薇ちゃんが、ビシッと私の鼻先にペンを突きつける。
『一つ目は、あの裏サイトの噂。「Re:bloom」って名前を知ってる生徒や教員がいないか探ること』
『二つ目は、被害者の子の交友関係ね。最近様子がおかしかったとか……何か悩んでなかったかとか』
なるほど。
まずは足を使って探るんだ。
さすが野薔薇ちゃん。
「わかった。さりげなく聞き出せばいいんだね」
私が頷くと、後ろからフォークがお皿に当たる音がした。
振り返ると、先生が机に腰掛けて私たちの作戦を聞きながら、ショートケーキを美味しそうに頬張っていた。
口の端に生クリームがついている。
『あ、そうそう。ついでなんだけどさ』
イチゴをぱくりと飲み込んで、先生が何かを思い出したようにフォークを揺らした。