第7章 「残るのは、君だけ」
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が連れ去られた――その事実を受けて、五条はただ一直線に歩いていた。
薄暗い廊下に靴音が乾いた音を刻む。
その足取りは迷いなく、ただ一点だけを目指している。
胸の奥に渦巻くのは、焦りとも怒りともつかない熱。
それを抑え込むより先に、扉の前へたどり着いた。
「お待ちください! 今は会議中です!」
慌てて駆け寄った事務員の声が響く。
だが、五条は止まらない。
「……知るか」
低く吐き捨てると、そのまま――
バンッ!
乱暴に扉を押し開けた。
そこには重々しい空気の中、数人の重鎮たちが並び、そこには楽巌寺学長の姿もあった。
一斉に視線が五条に集まり、温度が一段下がる。
「ノックもせずに失礼だぞ、五条悟」
眉をひそめる上層部の声。
「……どうした、五条。そんな怖い顔して」
楽巌寺が低く問いかける。
五条はゆっくりと彼に歩み寄り、口の端を上げた。
「おじいちゃんこそ、まだ京都帰ってなかったの? ボケて帰り道がわからなくなっちゃったのかな?」
そして、さらに一歩だけ距離を詰める。
「――それとも、何かを見届けてからじゃないと帰りたくないのかな?」
皮肉に隠した探りが、室内の空気をさらに張りつめさせた。
楽巌寺の目が細くなる。
「……勘繰りすぎじゃ、五条」
わざと笑みを混ぜた声は、とぼけるように軽い。
「回りくどいの、僕、嫌いなんだよね」
五条は低く言い放つと、机に片手を置き、身を乗り出す。
「――はどこ?」
低く、抑えきれない鋭さが滲んだその一言に、室内の温度が一瞬で氷点下まで落ちた。
誰もが、息を飲む音すら忘れる。
わずかな紙の擦れる音と、壁掛け時計の針が刻む音だけが響く。
五条は短くため息を吐いた。
「……ま、いいや。どうせ素直に教えてくれるとは思ってないし」
肩をすくめながらも、その口元には冷ややかな弧が刻まれた。