第7章 「残るのは、君だけ」
「はね、お前らの古い、錆びついた物差しじゃ測れないんだよ」
目隠しの奥の視線が、鋭く突き刺さる。
「呪術界が、千年前異端として抹消した存在――悠蓮。それが、今またこの時代に、という器を選んで現れた。これがどう言うことかわかる?」
その声は、静かなのに刃物のような冷たさを帯びていた。
楽巌寺は片眉を上げ、訝しげに問う。
「……何が言いたい」
五条は喉の奥で短く笑った。
「フフッ、わかんないか?」
その声音は、からかうようでいて一切の温度を持たない。
「くだらない地位や伝統のために、堰き止めた力が――いま大きくなってまた押し寄せてるんだよ」
片手をポケットに突っ込み、五条は肩を揺らす。
「これからは、“呪術”や“特級”なんて物差しじゃ測れない。……牙を向くのが僕だけだと思ってんなら、痛い目見るよ、おじいちゃん」
楽巌寺の目がわずかに細くなる。
その皺の奥に、静かな警戒が宿った。
「……少し、おしゃべりが過ぎるのう」
鋭い眼差しが五条を射抜く。
だが、五条は口角を上げたまま、肩をすくめる。
「おー、怖っ。……じゃ、言いたいこと言ったし退散しよっと」
ひらりと手を振り、扉へと向かう。
背後に重い沈黙を残したまま、五条はその場を後にした。
廊下に出ると、足取りが自然と速まる。
(さて……は呪力がない。僕の六眼でも探せるかどうか)
指先で顎を軽くなぞりながら、視線を宙に泳がせる。
(どうする……)
ふと、先ほど目にしたの部屋が脳裏に浮かんだ。
(部屋に戻っていないなら……もし、僕との約束を守っていたとしたら――)
足が自然と駆け出していた。
焦燥と苛立ちが同じ速度で脈打ち、靴音をさらに鋭くしていった。