第27章 「花の匂いは誰のもの**」
「これは石鹸、いや甘い花のような……」
「えっ。どっちなんですか!?」
一番知りたいことだったのに。
肩透かしを食らって、つい声を上げてしまった。
「もっと体温を上げれば、はっきりとわかるはずだよ」
「……体温?」
「そ。だからさ……もっと熱くして、確かめてみようか」
蒼い瞳が、何かを企むようにじっと私を捉える。
(まずい……)
背筋に、さっきとは違う種類の寒気が走った。
このままだと、先生のペースに流される。
「あ、あはは……。わ、私、明日すっごく朝早いんだったー。そろそろカエラナキャー」
自分の声が、不自然なほど平坦になる。
私は笑顔を引きつらせながら、そーっと先生の膝から降りようと腰を浮かせた。
けれど。
先生はわかっていたのか、また抱き寄せられて膝の上に戻されてしまう。
なぜかさっきより密着してくるから、先生の胸元に手を当てて押し返すけれど、岩みたいにびくともしない。
「先生っ! もう下ろして……っ」
「えー、なんで? 自分の匂い、知りたいんじゃないの?」
「それは、もういいですから! 伏黒くんは、石鹸って言ってたし」
そう言った瞬間、ぴたりと先生の動きが止まって。
さっきまで楽しそうに緩んでいた口元が、みるみる不機嫌そうにへの字へ変わっていく。
「あー……そうだよね。別に僕じゃなくても、恵に確認してもらったんだもんね」
「へっ……」
「僕より恵の言うこと聞くんだ。ふーん……そっかー」
露骨に顔を背けて、拗ねたような声を出す。
(……なんか、地雷踏んだ!?)
そんなに気にすることだったかな。
あれは、たまたま教室にいたのが伏黒くんだったってだけで。
「違いますっ! 伏黒くんに頼んだのは、特に意味はなくて……っ」
弁解しようとしたが、先生はそっぽを向いたまま。
(うーん……困った)
こうなった先生の機嫌を直すの、かなり大変なんだよね。
下手をすると、あとで何倍にもなって返ってくる。
とりあえず、八ツ橋食べて機嫌直してくれないかな。
そう思って、テーブルの箱に手を伸ばそうと、ほんの少し腰を動かした、その瞬間だった。
(……え?)