第27章 「花の匂いは誰のもの**」
虎杖くんの頬に、宿儺が現れて。
悠蓮の力が、理に泥を塗る最悪の逆理だと言われたこと。
そして。
私と悠蓮の境界線が、すでに溶け合っているのかもしれないという、得体の知れない恐怖。
途切れ途切れになりながらも。
自分の中に溜まっていた暗い感情を少しずつ、すべて先生に零していった。
(……不思議だな)
全部話し終えると、あれほど冷たかった指先にじんわりと血の気が戻っていくのがわかった。
一人で抱えていた恐怖が、言葉にして吐き出すことで、ほんの少しだけ軽くなる。
私の話を聞き終えた先生は、何も言わなかった。
視線を落として、何かを深く考えているみたいだ。
「……あの、先生?」
「いや……」
呼びかけても、言葉を濁すような短い返事しか返ってこなかった。
その沈黙が、じわじわと不安になる。
(私、重い話しすぎたかも……)
京都から帰ってきたばかりで、先生きっと疲れているはずなのに。
それなのに、私は会って早々に暗い話ばかり押し付けてしまった。
「……ごめんなさい、先生。私、自分のことばっか――」
「」
先生が私の名前を呼んで、話を遮った。
「は、はい……」
怒られるのかと思って、緊張しながら次の言葉を待つ。
先生は、いつになく真剣な顔で私を見つめて――
「恵に、匂い嗅がせたの?」
「……え?」
腰に添えられていた先生の手にぐっと力がこもる。
次の瞬間、ぐらぐらと前後に身体を揺さぶられた。
「ちょっと! なんでよりによって恵なわけ!? それって立派な浮気だよ! 悟泣いちゃう!」
「えっ、あ、ちょっと……っ!」
……そこ!?
さっきまでのシリアスな空気が、一瞬で吹き飛んでいった。