第27章 「花の匂いは誰のもの**」
すると、頭の上で先生が小さく息を吐いた。
「……んー」
抱き寄せるでも、突き放すでもない曖昧な声。
やっぱり迷惑だったかなと思って、身体を離そうとした、その瞬間――
ふわりと、身体が宙に浮く。
「わっ……!」
視界がぐるりと回って、私は先生の膝の上に向かい合う形で座らされていた。
「……先生っ? なんで急に膝の上……っ」
「だって、僕がの顔見たいんだもん」
「……え?」
「さっきみたいに肩にくっつかれてたら、僕からの顔、全然見えないじゃん」
「だ、だからって……っ」
慌てて降りようと先生の肩に手をつく。
けれど、背中に回された腕にぎゅっと引き寄せられて、そのまま抱き込まれてしまった。
先生に触れたいとは思ってはいたけど。
(……っ、近い。近すぎる)
体温が一気に上がっていくのが、自分でもわかった。
どこを見ればいいのかわからなくて、視線を泳がせていると。
ふいに先生の顔が近づいてきた。
吐息がかかるくらい、近い距離。
(キス、される……っ)
どくどくとうるさいくらい心臓が鳴る。
思わずぎゅっと目を閉じた。
唇にもちっとした柔らかいものが押し当てられた。
「……ん?」
目を開けると、先生が薄紅色の八ツ橋を私の口元に当てたまま、くすくす笑っていた。
「はい、あーん」
「えっ、あ……むっ」
驚いて口を開けた隙に、そのまま八ツ橋がぽいっと放り込まれる。
もっちりとした皮の食感と一緒に、いちごとあんこの上品な甘さが口いっぱいに広がった。
「いちご味も美味しいでしょ」
先生は、もぐもぐと咀嚼する私を見て満足そうに笑った。
(……甘い)
なんだか、すごく調子を狂わされる。
でも、そのおかげで張りつめていた肩の力が、ふっと抜けていくのがわかった。
私がごくんと八ツ橋を飲み込むと、先生は目隠しを外した。
「ほら、僕に話してみな」
まっすぐ向けられるその視線が、ひどく優しい。
こんな風に見つめられたら、隠し事なんてできるはずがない。
(……先生には、敵わないや)
私は胸の奥に沈めていた言葉を、そっと押し出した。
「……今日、実は――――」