第27章 「花の匂いは誰のもの**」
「……だから言ったじゃない。あんなの、聞くだけ損よ」
「え……」
虎杖くんも、すぐに言葉を重ねた。
「そうそう! あいつ、俺にもよくああいうこと言ってくるし。気にすんなよ、」
二人の言葉に、少しだけ気持ちが軽くなる。
けれど、まだうまく返事はできない。
「先生もいないし、今日は授業サボりましょ」
「お、いいな!」
虎杖くんが目がきらっと輝く。
「映画とか見る? みんなでミミズ人間4見に行くのはどう?!」
「なんでそこでミミズ男なのよ。もっとこう、買い物とか甘いもん食べに行くとかあるでしょ」
「いや、ミミズ人間なんだけど……」
「どっちでもいいわ」
「も、ミミズ人間見たいよな?」
そう言って、虎杖くんがこっちを振り返ってにかっと笑った。
「見たくないわよ、そんなもん!」
野薔薇ちゃんがすかさず突っ込んで、二人のいつもの言い合いが始まる。
(……二人とも)
その時、不意に肩をぽんと叩かれた。
顔を上げると、伏黒くんが申し訳なさそうに眉を寄せていた。
「……気にすんな。さっき俺が言ったことも、別に確証があるわけじゃない……怖がらせたなら、悪い」
その不器用な言い方が、伏黒くんらしい。
三人とも、私の不安を拭うように気遣ってくれている。
これ以上、みんなに心配はかけられない。
「みんなの言う通り、宿儺に聞くべきじゃなかったね。私は大丈夫だから」
そう笑って返すと、伏黒くんは「……何かあれば言えよ」と少しぶっきらぼうに言った。
大丈夫。
私は、私だもん。
悠蓮が何者だったとしても。
その力をどうするかは、私が決めればいいって――先生も、そう言ってくれた。
だから。
ちゃんと、いつも通りにしなきゃ。
「ミミズ人間、4から見てもついていける?」
虎杖くんが「いけるいける!」と勢いよく食いついて。
そこからゲーセン、カラオケと話が転がって、さっきまで教室を覆っていた重い空気が徐々にほどけていった。
私もつられるように笑って、みんなの他愛ないやり取りに耳を傾ける。
でも――後ろで隠すように握った手だけは、震えが止まらなかった。