第27章 「花の匂いは誰のもの**」
『……あの女のことを知って、どうする』
それは、はっきりと『悠蓮』の存在を肯定する口ぶりだった。
「やっぱり知ってんのか!? 教えろよ!」
虎杖くんがさらに食い下がる。
でも、宿儺の口は虎杖くんの言葉を無視して、私の方へ向けられた。
(……っ)
頬に現れた口。
それだけなのに、足がすくんで動けなくなるような恐怖を感じる。
「ケヒッ、小娘。この前見た時より、花がよく熟れているな」
花が、熟れる……?
どういうことだろう。
いや――今は、それより。
押さえ込んでいた右手に、さらにぎゅっと力を込める。
「教えて。悠蓮は、千年前……何をしたの?――――どうして、魔女なんて呼ばれていたの?」
問いかけた私の声は、自分でも驚くほど低く、硬かった。
「そうだぜ」
後押しするように、虎杖くんも口を開く。
「あんな綺麗な花を咲かせるの力が危険だなんて、俺には到底思えねぇよ。千年前の連中がなんか誤解してたとか……」
『――くっ、ははははっ!』
虎杖くんの話を遮るように、宿儺が腹の底から愉快そうに笑い出した。
『小僧、相変わらず反吐が出るほどつまらん考えだな。あれが綺麗な花に見えるか? 傑作だ』
『あの女の力は、そんな生ぬるいものではない。この世の理に泥を塗りたくって嘲笑うような、最悪の逆理よ』
ひどく嬉々とした宿儺の言葉が、耳に纏わりつく。
『くくく……魔女と呼ぶにふさわしい、極上の呪い』
『……その花が何を呼び起こすか、今から楽しみだ』
最後に満足げに口の端を吊り上げて。
宿儺は、すっと溶けるように消えてしまった。
「……っ、おい! 宿儺! まだ話は終わってないぞ!」
虎杖くんが慌てて自分の頬を叩くが、もうあの気味の悪い笑い声は聞こえなかった。
誰もすぐには言葉を見つけられなくて、教室に重たい沈黙が落ちる。
この世の理に泥を塗る、最悪の逆理。
極上の呪い。
(私の花が、何を呼び起こすか……)
寒くもないのに、身体の震えが止まらない。
(こんなことで、いちいち怯えてたらだめなのに)
視線を落としたまま黙り込んでいると、
そんな私を見た野薔薇ちゃんが、空気を変えるみたいに大きくため息をついた。