第27章 「花の匂いは誰のもの**」
果てしなく続く、白い花の海。
吸い込まれるような、あの翠の瞳。
頬を撫でる、氷のように冷たい指先。
『恐れるな。拒んでも、抗っても――』
甘く、けれど逃げ場を奪うような、あの掠れた声が蘇る。
『――時が来れば、お前は私と一つになる』
……あれは、そういう意味だったの?
伏黒くんの推測が、悠蓮の言葉と重なっていく。
私が悠蓮に近づいてるの?
それとも、悠蓮が私の中に入り込んでるの?
自分の輪郭が、少しずつ揺らいでいくような。
そんな得体の知れない恐怖が、ゆっくりと這い上がってくる。
(私は、私だよね……?)
気づけば、手が震えていた。
三人に悟られたくなくて、右手を左手でぎゅっと押さえ込んだその時――
「……くくっ。自分が自分でなくなる恐怖……ひどく甘い匂いがする」
低く、這うような笑い声が教室に響く。
一瞬で、空気が冷え切った。
「す、宿儺……っ! お前、話聞いてたのかよ!」
いつの間にか、虎杖くんの右頬に、裂けるような『口』が現れていた。
伏黒くんと野薔薇ちゃんも、わずかに身構える。
私も、その異様な口を見つめることしかできなかった。
虎杖くんは、はっとしたように目を見開くと、
「あ、ちょうどいいや。お前、悠蓮のこと知ってんのか?」
と、ど直球すぎる質問を宿儺ぶつけた。
(虎杖くん、いきなり……っ!?)
すると、宿儺の口が面倒くさそうに歪んだ。