第27章 「花の匂いは誰のもの**」
「……そうなの?」
「うん。宿儺のやつは、俺の記憶を読み取れるらしいんだけどさ。器の俺が、宿儺の記憶を見ることはできねぇんだよ」
虎杖くんは、見たことがない。
その事実に、心臓が少しだけ早く脈打つ。
同じように別の魂を宿しているのに、私と虎杖くんとでは何かが違うのだろうか。
「……これは、仮説だけど」
教室に、伏黒くんの低い声が落ちた。
彼は顎に手を当てて、話を続けた。
「虎杖とでは、『器』としての在り方が違うのかもしれない」
「どういうことだよ、伏黒」
虎杖くんが、不思議そうに身を乗り出す。
「お前と宿儺の魂は、水と油みたいに完全に独立してるってことだ」
「虎杖は器っていうより、宿儺を封じ込めるための『檻』みたいなもんなんだよ」
「だから、お前が宿儺の過去の記憶を見ることもないし、魂が影響を受け合うこともない」
虎杖くんが「あー……よくわかんないけど、なるほど」と納得したように首を縦に振った。
伏黒くんは少し呆れたように虎杖くんを見た後、私の方へ視線を移す。
「でも、が悠蓮の記憶を見ているってことは……」
「まるでコインの裏表みたいに、お前と悠蓮の境界線が混ざり合っているのかもしれない」
その言葉に、氷を胸に当てられたようにヒヤリとした。
私と悠蓮が混ざり合っている。
一つの身体の中で、別々の魂が存在しているんじゃなくて。
最初から、境界線なんてないみたいに溶け合っているのだとしたら。
そう思った瞬間――
いつか見た夢の光景が、急に頭の中に蘇った。