第27章 「花の匂いは誰のもの**」
「うん。虎杖くん、覚えてる? ほら、あの廃村で虎杖くんが怪我した時、宿儺が出てきたじゃない」
「ああ。……それがどうかしたのか?」
虎杖くんが、不思議そうに首を傾げた。
「あの時、宿儺が私のことを見て言ったの。『花の匂いのする女』って。……だから、本当に匂うのかなって気になっちゃって」
それを聞いて、虎杖くんがハッとしたように顔を上げる。
「あー、あんときか! そういやアイツ、のことジロジロ見ながらそんなこと言ってたな」
「自分で嗅いでもわからなかったから、伏黒くんに頼んだの。首が一番わかりやすいかなって」
騒がしかった教室が、しんと静かになった。
……よかった。
ひとまず、事情は伝わったみたい。
すると、野薔薇ちゃんが呆れたようにため息をついて、虎杖くんがぽりぽりと頭を掻いた。
「……そういう無防備なとこ、マジで直した方がいいぞ。五条先生いなくてよかったな」
「そうよ。伏黒じゃなかったら、今頃あんた食べられてるわよ。バカ」
「え……」
なんでみんな、先生を気にするの?
匂いを嗅ぐって、そんなにまずいことだったのかな。
呪術的に大きな意味を持つとか……?
「で。結局どうだったのよ、伏黒」
野薔薇ちゃんに話を振られて、伏黒くんがまだ少し耳の先が赤いまま、顔を背けて吐き捨てるように言う。
「……石鹸の匂い」
「しっかり嗅いでんじゃないわよ。引くわっ!」
「なんなんだよ、お前はっ!」
顔を赤くして大声で叫ぶ伏黒くんを横目に、私は頭の中を整理した。
私から花の匂いはしない。
物理的な匂いじゃないってことだよね。
じゃあ――
「あれ、じゃあさ」
虎杖くんが腕を組んで、天井を見上げる。
「宿儺が『花の匂いがする』なんて言ったの、なんでなんだ?」
「ただの気まぐれなんじゃないの? 適当なこと言って、をからかって遊んでただけでしょ」
野薔薇ちゃんの言う通り、ただの気まぐれなのかもしれない。
私の気にしすぎなんだろうか。
でも。
胸の奥の違和感は、どうしても消えてくれなくて。