第27章 「花の匂いは誰のもの**」
教室の扉を開けると、窓際の席に伏黒くんが一人で座っていた。
私は迷わず彼のもとへ歩み寄る。
「伏黒くん、おはよう。お願いがあるんだけど」
ふざけていないことが伝わるように、真っ直ぐに彼の目を見つめた。
「……なんだよ、朝から」
本を読んでいた伏黒くんが、怪訝そうに眉を寄せる。
私は制服の襟元を少しだけ横に引っ張って、自分の首筋を指差した。
「ここ。どんな匂いがするか、嗅いでみてくれないかな」
「……は!?」
ガタッ!!と、教室中に響くような大きな音がした。
伏黒くんが椅子から跳ね起きて、ものすごい勢いで後ずさる。
「お、お前、朝から頭わいてんのか!?」
「わいてないよ。すっごく真剣だよ」
「真剣に首の匂い嗅がせるやつがいるか! つか、なんでよりによって首なんだよ! 腕とかでいいだろ!」
全力で拒否する伏黒くんに、思わずたじろぐ。
そんなに嫌がらなくてもいいのに……
「だって腕は、さっき洗面所でハンドソープで洗っちゃったから。 体温が高いところって、一番匂いがわかりやすい場所かなって」
「……お前な……」
伏黒くんが、頭を抱えるようにして顔を覆った。
指の隙間から見える耳の先が、真っ赤に染まっている。
「だいたい、なんで俺なんだよ。そういうのは五条先生にでも頼んだらいいだろ……」
「先生、出張で京都に行ってるし」
「じゃあ、釘崎に頼め」
「野薔薇ちゃんたちもまだ来てないじゃない。私、どうしても今すぐ確かめたくて……」
両手を合わせて、じっと彼を見つめ返した。
(……宿儺の言葉の謎を解くためだもん)
無言の圧をかけ続ける。
しばらく睨み合っていたけれど、やがて伏黒くんが深々とため息をついた。
「……一瞬だけだからな。五条先生には言うなよ」
「え、うん。ありがとう!」
さっきから伏黒くんが先生を気にする理由がわからないけど。
でも、今はとにかく匂いを確認してもらう方が先だ。
「じゃぁ、おねがいします」
私は制服の襟元を広げ、じっと彼を待った。
伏黒くんが視線を泳がせながら、首元に顔を近づけてくる。
耳元で小さく息を吸い込む音がした、その瞬間――