第26章 「愛ほど歪んだ呪いはない」
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僕はスマホを耳から離して、暗くなった画面を見つめた。
さっきの少し震えた一生懸命なの声が、まだ耳に残っている。
(帰ったら、あと二十回は言ってもらお)
そう決意して、スマホをズボンのポケットに突っ込んだ。
(……さて、と)
冷たい夜風が、前髪を揺らす。
目の前にそびえ立つのは、見慣れた、ひどく古めかしい木造の門。
五条家の本邸だ。
(さっさと終わらせるか)
重い木の扉を、片手で押し開ける。
ギィ……と、軋むような音が静かな敷地内に響いた。
玉砂利を踏んで歩き出すと、よく知った声に呼び止められる。
「……おや、悟様。今日はどうされたのですか?」
薄暗い庭の奥から、執事の榊原さんが現れた。
少しだけ目を丸くして、僕を見ている。
「あの人、いる?」
「……はい。奥の間にいらっしゃいます」
榊原さんが恭しく頭を下げたが、僕は足を止めずにすれ違った。
長い渡り廊下を歩く。
向かうのは、敷地の一番奥にある部屋。
目的の部屋の前で足を止めて――
バンッ!
僕は襖を力任せに、乱暴に引いた。
大きな音が、夜の静寂を切り裂く。
広く薄暗い和室の中央。
白髪の老人がひとり、背筋を伸ばして筆を握っていた。
半紙に向かったまま、僕の方へ視線を寄越すことすらしない。
「……礼儀がなってないぞ、悟。現当主ともあろう者が」
「身内に礼儀なんている? 前当主様」
皮肉を込めてそう呼ぶと、じいさん――五条家の前当主であり、僕の祖父でもある男は、ようやく筆を止めた。
僕はそのままずかずかと部屋の中へ踏み込み、じいさんの目の前まで歩み寄る。
それから、ズボンのポケットからスマホを取り出した。
「小言を聞きに来たわけじゃないんだよね。ちょっと、これ見てよ」
画面をタップして、一枚の写真を表示する。
じいさんが筆を走らせている半紙のすぐ横に、スマホを無造作に置いた。