第26章 「愛ほど歪んだ呪いはない」
「誰かの痛みを、自分のことのように悲しめるところとか。その目の色とか。……すごく、よく似ている」
「さんと話していると、すごく懐かしい気持ちになるんだ……また、こうして話をしてくれると嬉しい」
けれどすぐに、須和さんははっとしたように視線を逸らした。
「……っと、ごめん。私は急に何言ってるんだろうね」
「変な意味とか、そういう下心があるわけじゃなくて。……ただ、その。いきなりこんなこと言ったら、怖がらせてしまうよね。忘れてくれ」
さっきまでの知的で落ち着いた大人の雰囲気は、どこにもなくて。
言い訳を探すように焦っている姿が、なんだかすごく「普通の人」みたいで――
思わず小さく吹き出してしまった。
「ふふっ」
「……さん?」
「あ、すみません。……でも、大丈夫です。わかってますから」
笑ってしまったのをごまかすために、私はそっと指先を唇に添えた。
「……私でよければ、また話してください」
「誰かに話すだけで、気持ちが落ち着くことって……ありますよね」
何かが変わるわけじゃなくても。
聞いてもらえるだけで、息がしやすくなることがあるから。
先生が、私にそうしてくれたみたいに。
「ありがとう、君は優しいね」
須和さんは安堵したように笑っていた。
気がつけば、高専の正門がすぐ目の前まで迫っていた。
太陽はもうすっかり傾いて、空がオレンジ色に染まっている。
「それじゃあ、ここで。見送ってくれてありがとう、さん」
須和さんは立ち止まり、私に向かって軽く頭を下げた。
「いえ……今日は、ありがとうございました」
私も深くお辞儀をする。
須和さんはそのまま背を向けて、門の外へと歩き出した。
夕日に染まる彼の背中が小さくなっていくのを見送りながら。
自分の右手をそっと開いて、見つめた。
『命の終わりに寄り添える』
この力が何なのか、まだ全部はわからない。
怖いと思う気持ちも、なくなったわけじゃない。
でも、先生もみんなも。
綺麗な力だって言ってくれた。
……だから、守りたい。
諏訪烈なんかに、好きにされるわけにはいかない。
そう心の中で言い聞かせて、私は右手をぎゅっと握りしめた。