第26章 「愛ほど歪んだ呪いはない」
「はい。……私の力は行き場をなくして苦しんでいる魂を、本来還るべき場所へ送るための力です」
須和さんは私の答えを聞くと、柔らかく微笑んだ。
そして、道端に咲いていた名も知らない草花に、そっと視線を落とす。
「送る、か。……君のその手は、命の終わりに寄り添うことができるんだね」
「君が言うように、魂を肉体に戻せば人は生き返るのか」
再び私へと向けられた瞳は、静かな熱を帯びていた。
「……正直なところ、私にもわからない。この世界は、まだ“魂”という存在そのものを定義できていないからね」
「だけど、仏教に『ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される』……そういう教えがあるのも事実」
「……?」
難しすぎて、頭の中に小さな疑問符が浮かぶ。
須和さんは「ああ、ごめんね」と少しだけ困ったように笑った。
「わかりやすく言うと……人間は、肉体だけじゃ完成しないってことだよ」
「たとえ肉体が動いていても、そこに“その人”がいなければ意味がない。逆に言えば――」
「身体は死んでいても、そこに“魂”と呼べる情報がぴったりと収まるのなら。……理論上は、再び鼓動が始まってもおかしくはない」
須和さんは顎に手を添えて、何かに思い当たったみたいにぽつりと呟く。
「……そうか。あの白い花は……“魂の代用品”を作ろうとしていたのかもしれないな」
“魂の代用品”――
そんなこと、できるはずがない。
魂に、代わりなんてあるわけないのに。
でも。
あの日、冷たい波に攫われていったお父さんとお母さんの姿が、ふと脳裏を過った。
もし、また二人に会えるとしたら……
どんな方法でも。
どんな形だったとしても。
きっと私は、手を伸ばしてしまう。
そう思ってしまう私は、おかしいのかな。
喉の奥につかえていたものが、気づけばそのまま言葉になっていた。