第26章 「愛ほど歪んだ呪いはない」
「そうだ。今度は、あの有名な五条悟くんにも、一度ご挨拶しないといけないな」
「……やめておいた方がいいですよ、先輩」
硝子さんが心底面倒そうな声を出しながら、灰皿に視線を落とした。
「あいつは……なんて言うか。まともに相手をすると疲れるだけですから」
「はは。噂通りだね。ますます会ってみたくなるよ」
須和さんは硝子さんの忠告を面白がるように笑ってから、私を見た。
「じゃあ、さん。また」
「あの、門までお送りします」
「いいのかい? 助かるよ。高専は少し、迷路のようだからね」
須和さんは穏やかに微笑んで、先に立って歩き出した。
私は、まだ何かを考えているような表情の硝子さんに会釈をして、彼の背中を追った。
♢
医務棟を出ると、少し傾きかけた太陽の光が、高専の石畳に長い影を落としていた。
須和さんの隣を歩きながら。
さっき医務室で聞いた言葉が、まだ頭の中でぐるぐると回っている。
『消えてなくなる、数グラム』
隣を歩く須和さんを見あげ、思い切って口を開いた。
「……あの、須和さん」
「ん?」
須和さんが、こちらへ少しだけ顔を向ける。
「さっきの、二十一グラムって話……。それって……魂のこと、ですか?」
「……」
私の問いに、須和さんは何も答えない。
ただ、穏やかな足音だけが続く。
「もし、その消えてしまった魂を、もう一度体に戻すことができたら。……生き返ることができるんでしょうか?」
言い終わってから、変なことを聞いちゃったかなとちょっと後悔した。
でも、どうしても気になったから。
須和さんは、歩く速さを少しだけ緩めた。
「……家入から、少しだけ聞いたよ」
「さんは、呪力とは違う特殊な力を持っているってね」
須和さんの眼鏡の奥の瞳が、私を真っ直ぐに捉えた。
その視線は、決して冷たくはない。
でも、心の中まで全部見透かされそうな、不思議な引力を感じた。