第26章 「愛ほど歪んだ呪いはない」
「でも、だからこそ。私は科学の力で、その『不可逆』の境界線を少しでも遠ざけたいんだ。……理不尽な別れによって、悲しみで立ち止まってしまう人を、これ以上増やさないために。私は、そんな未来を夢みてしまう」
「……先輩は先輩ですね」
硝子さんが口角を少しだけ上げて、新しい煙草に火をつけた。
「……さて、さん。難しい話をして怖がらせてしまったかな」
須和さんは私の視線に合わせて、少し腰を落として笑いかけてくれた。
「いえ……。その、すごく……深いお話だな、って」
「ありがとう。君のような若い方にそう言ってもらえると心強いよ」
須和さんは顔を上げると、再び処置台の花へと向き直った。
「家入。……この白い花については、もう少し多角的なアプローチで調べる必要があるね」
「ええ、それであなたを呼んだんです」
硝子さんは白衣のポケットに手を突っ込み、煙草を指先で弄んだ。
「サンプルをいくつか持ち帰らせてもらえるかな。私のセンターなら、より詳細なデータが取れるはずだ」
「構いませんよ。上への報告は、私の方でやっておきます」
須和さんは花の一部を採取して小瓶に収めると、胸のポケットにしまった。
「君の協力が必要になる時が、来るかもしれない。その時は、よろしくね。さん」
「あ、はい。……私にできることなら」
「今日のところは、これで失礼するよ。また進展があれば連絡する」
「頼りにしてます、先輩」
須和さんは出口に向かいかけて、ふと思い出したように足を止めた。