第26章 「愛ほど歪んだ呪いはない」
(……通過点)
その言葉が、妙に胸に引っかかった。
再生医療ですら途中なら、この人が本当に見ている先はどこなんだろう。
「……須和さんのゴールは、死を克服すること、なんですか?」
須和さんが、少し意外そうに私を見た。
「あ、すみません。……昨日、須和さんの本を読んだので」
「読んでくれたんだね。ありがとう」
須和さんは、少しだけ嬉しそうに目を細めた。
けれど、その温度のある微笑みとは裏腹に、彼の瞳はどこか遠い場所を見ている気がした。
「だったら、この実験のゴールはなんだと思います? 先輩」
硝子さんの問いに、須和さんは処置台の上の遺体に視線を戻す。
「……おそらく。死者の蘇生。それも、完全な形でのね」
(蘇生……)
心臓が一度だけ、大きく脈打つ。
「……そんなこと、できるはずがないです」
気づけば、口からこぼれていた。
死んだら、それで終わりだ。
魂はあちら側へ還るもの。
それがこの世界の理。
「そうだね。君の言う通りだ」
須和さんは、静かに頷いた。
「さん。科学的にも呪術的にも、不老不死を実現することより、一度死んだ人間を蘇生させることの方が、遥かに困難とされているんだよ」
「そう、なんですか?」
私が聞き返すと、須和さんは遺体の青白い指先にそっと触れながら話を続けた。
「……情報の、欠落だよ」
「生きた細胞は、常に情報のやり取りをしている。けれど、心臓が止まり、血液という運搬手段が失われた瞬間から、その膨大なデータは急速に壊れ、消えていく。本を燃やして、灰にしてしまうようなものだ」
「灰を見て、元の物語を読み直すことはできない……だから、肉体という器をどれだけ完璧に修復しても、命は決して戻らない」
そこまで話すと、須和さんは硝子さんへと視線を移した。
「家入。……学生時代の講義、覚えてるかな。解剖学のあとに、君と少し話しただろう」