第26章 「愛ほど歪んだ呪いはない」
「人間も植物も、細胞を維持するためには、必ず膨大な『水分』が必要になるはずなんだ。点滴などの外部からの補給もなしに、どうやってこの状態を保っているのか」
そう言いながら、須和さんは遺体の足首を覆っていたシートをさらに下へとめくった。
そして、足の指先をじっと観察してから、私と硝子さんを手招きした。
「家入。さんも、ちょっとここを見てくれるかな」
「……はい」
おそるおそる近づいて、須和さんが指し示す足の先を覗き込む。
(あ……)
青白い肌の中で、そこだけがはっきりと違っていた。
足の爪の周りや指先が、赤黒く変色して、少しだけ干からびたようになっている。
「変色、してる……」
「うん。末端から、少しずつ組織が壊死し始めている」
須和さんは、眼鏡のブリッジを指で押し上げながら、説明を続けた。
「外から水分を吸収できない以上、枯れていくのみ。どうやら……永遠ではないようだね」
「なるほど。放置すれば、いずれ花も遺体もミイラ化して崩壊するってことか」
硝子さんが納得したように呟いた。
「ただの保存や死体処理が目的なら、そういう呪術か何かを使った方がはるかに効率がいい。……ますます解せないな。犯人の目的が」
須和さんは遺体を見下ろしたまま、静かに口を開く。
「この花は心臓に根を張り、わざわざ血の巡りを模倣しようとしている。ただ状態を保存したいだけなら、そんな機能は必要ないはずだ」
「これは……死んだ肉体を、もう一度“稼働”させようとした痕跡だよ」
その言葉に、硝子さんの動きがピタリと止まった。
「稼働……って」
「だが不完全だから、末端から壊死が起きている。つまりこれは、まだ実験の段階なんだろう」
「科学者は常に、無数の失敗を積み重ねて形を作る。私にとっての再生医療も、単なる通過点であって、決してゴールではないのと同じようにね」