第26章 「愛ほど歪んだ呪いはない」
硝子さんが、処置台の上にかけられていた白いシートをめくった。
そこには、熊本から移送してきた男性の遺体。
青白い肌から肋骨を突き破るように咲いている、一輪の白い花。
(……っ)
何度見ても、やっぱり慣れない。
思わず、両手で自分の腕をぎゅっと抱きしめた。
「……なるほど。これは」
須和さんは遺体に近づき、顔を寄せるようにして白い花を覗き込んだ。
「死後、どのくらい経っているんだい?」
「発見されてから十日以上は経過してますね。でも、見ての通り」
硝子さんが淡々と答える。
「細胞の壊死が完全に止まってる。この花が、遺体の時間を止めているみたいに」
「……興味深いな」
須和さんは、花びらのすぐ近くまで手を伸ばした。
触れるか触れないかの距離で、その指先が止まる。
その横顔は、完全に研究者のそれになっていた。
食い入るように花を見つめるその目には、静かで知的な光が宿っている。
「家入。この花、根はどこまで張っている?」
「心臓の右心室あたりから始まって。そこから血管を這うようにして、全身に微細な根を張り巡らせていました」
「血管を……」
須和さんはふっと息を吐き、ゆっくりと身を起こした。
「まるで、この花自体が心臓の代わりとして機能し、全身に何かを循環させているみたいだな」
そして、顎に手を当て、思考を巡らせるように呟いた。
「……でも、不思議だね」
「不思議?」
硝子さんの問い返しに、須和さんは視線を遺体の足元へと移した。