第7章 「残るのは、君だけ」
――だからこそ、そのことで先生に余計な負担はかけたくなかった。
男は感情を見せないまま、静かに続ける。
「あなたが一緒に来て頂ければ、全て解決します」
胸の奥で、五条の声と男の言葉がせめぎ合う。
あの真剣な眼差しが脳裏をよぎる――先生は理由があって忠告してくれたはずだ。
だが、それと同時に、これ以上、自分のせいで五条を煩わせたくない気持ちが重くのしかかる。
――もしここで拒めば、何が起こるのか。
逆に従えば、先生には迷惑はかからない……そのはずだ。
それでも、不安は静かに膨らみ、形を変えていく。
(……大丈夫。私が行けば、全部済む。そうすれば――)
自分に言い聞かせるように、小さく息を呑む。
そして、揺れる声を押し殺して告げた。
「……わかりました。一緒に行きます」
そう伝えると、男は何も言わず、背を向ける。
その歩幅に合わせても歩き、校門の外へ出た。
黒塗りの車が、ひっそりと待っている。
後部座席のドアが無言で開かれ、瞳はためらいながらも乗り込んだ。
ドアが閉まる直前――
校門脇を歩いていた野薔薇は、ふと視線の先にを見つけた。
黒塗りの車の後部座席に乗り込もうとしている。
その横顔は硬く、夕闇の影に半分隠れていた。
(……何してんの、あの子)
声をかけようと一歩踏み出した瞬間、車のドアが重い音を立てて閉まる。
窓越しに見えたが一瞬こちらを見た気がしたが、
車はすぐに発進し、校門の外の闇に溶けていった。