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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第7章 「残るのは、君だけ」


「じゃあ――今、僕のこと見てよ」



耳元に落とした声は、自分でも驚くほど低く熱を帯びていた。
の喉がひくりと動くのが見える。


やがて、ゆっくりと振り返る彼女。
夕陽に照らされた訓練場で、長い影が足元に重なる。
ためらいながらも、視線がこちらへ上がってくる。


目隠しの奥で、その瞳の揺れを捉える。
呼吸が浅くなり、胸の奥の脈が早まる。
あとほんの数センチで――



「五条さん!」



訓練場の扉が勢いよく開き、伊地知の声が飛び込んできた。
張り詰めていた空気が、ぱしんと弾ける。


あと数秒で、その瞳を捕まえられたはずだった。
理由はわからない。けれど、ただ彼女の瞳に自分を映してほしい――それだけだった。


中断させられた苛立ちと、消えきらない熱が皮膚の下を這う。


片手を壁から離し、振り返る。



「……なに?」

「すみません、夜蛾学長が至急いらして欲しいと」



伊地知はファイルを抱えたまま、少し戸惑った表情をしている。



「はいはい、行きますよ」



わざとらしく肩を落とし、小さくため息をついた。


扉へ向かいかけた足が、不意に止まった。
振り返り、笑みを消した声で告げる。



「。僕がいない間は高専から出ないこと。小太刀も、肌身離さず持ってて」



突然の真剣な声音に、彼女の動きが止まる。



「……え、あ、はい」



その素直な返事が、胸の奥をわずかに満たす。
守りたい気持ちと、が自分の言葉を受け入れたという確かな手応えが、静かに熱を残した。



「よろしい。じゃ、行ってくるね」



ひらりと手を振り、訓練場を後にした。


背後には、まだ消えきらない熱と、
捕まえ損ねた瞳の残像が、静かに揺れていた。
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