第7章 「残るのは、君だけ」
笑いながら走る輪の中で、は野薔薇や悠仁にからかわれ、肩を小突き返していた。
「は、このこと知ってるのか?」
「いや、知らない。……言わないほうが、あの子にはいいと思ったから」
硝子が少し目を細める。
「珍しいな。乙骨や虎杖の時は真っ先に伝えてたろ」
言われて、五条は軽く瞬きをした。
そういえば――と記憶を辿るように視線を宙に泳がせ、納得したように小さく頷く。
「……えらく気に入ってるんだな、のこと」
五条は口元に軽く笑みを浮かべたまま、肩をすくめる。
「……そう? 僕の生徒だし、守るのは当然でしょ」
硝子は訝しげに五条を見ながら、短く「ふーん」とだけ返す。
その視線に気づいた五条が首を傾げた。
「ん? 何か顔についてる?」
「いや、別に」
硝子はそれ以上何も言わず、再び視線を外に向けた。
春の陽射しの中、生徒たちの笑い声が遠く届く。
五条は無言のまま、その輪の中のを見つめ続けた。
――理由のわからないざらつきが、静かに胸の奥で燻り続けていた。