第24章 「可惜夜に眠る 後編②**」
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夜もすっかり更けて、別荘は静まり返っていた。
女子三人に割り当てられた、広いゲストルーム。
大きなベッドの上で、私は一人目を覚ましていた。
(……眠れない)
身体はへとへとに疲れてる。
今日は廃ビルでの戦闘もあったし、連日の訓練の疲れだって残っているはずなのに。
なのに、目だけが冴えていた。
窓の向こうから、波の音が聞こえてくる。
不思議と、もう怖くはなかった。
暗闇に引きずり込まれるような、あの冷たい感覚はない。
その音を聞いていると、今日はどうしても先生の顔が浮かんでくる。
(……会いたいな)
ぎゅっと抱きしめてくれた、大きな腕。
一緒に怒られてあげるって言ってくれた、優しい声。
私を安心させてくれる、あの大人で落ち着く匂い。
思い出しただけで、胸のあたりがそわそわして。
今すぐ、その体温に触れたくなる。
(今から行ったら、迷惑かな……)
時計の針は、もう深夜一時を回っていた。
いくらなんでも非常識だ。
大人しく寝ようと思って、シーツを引き上げた、その時。
「……オラァッ! パンダァッ!!」
「ひゃっ!?」
隣のベッドから、真希さんの凄まじい寝言が響き渡った。
振り返ると、真希さんが布団を蹴り飛ばして、空中で見えない何かを全力で殴っている。
(……夢の中でまで戦っている)
「ちょっと……私のA5ランク和牛、勝手に食べないでよ……っ! 呪うわよ……!」
今度は反対側のベッドから、野薔薇ちゃんの低いうめき声。
こっちはこっちで、夢の中でまだバーベキューをしているらしい。
私はシーツの中でもぞっと小さく身を縮めた。
一応、もう一度だけ目を閉じてみる。
でも、二人とも寝相も凄まじくて、さっきからこっちまで容赦なく腕や足が飛んでくる。
(……ね、寝れる気がしない)
音を立てないようにベッドを抜け出し、枕をそっと抱きかかえた。
迷惑かもしれない。
でも、このまま朝までひとりで目を閉じているのも、なんだか寂しくて。
私は静かに部屋のドアを開けて、廊下へ足を踏み出した。