第23章 「可惜夜に眠る 後編Ⅰ」
目を開けると、きらきらと光る波打ち際が視界に戻ってきた。
「……そのあとは」
「避難所で、いくら待っても……二人は戻ってきませんでした」
夜になっても。
次の日になっても。
避難所に人がくるたび、お父さんかもしれない、お母さんかもしれないって思って。
そのたびに違って。
「……私が、手紙を忘れて。『お父さんがいないとやだ』って、駄々をこねたから」
「……私が、手紙なんか忘れなければ。二人とも、一緒に高台へ避難できたのに」
「私が……二人を、家に向かわせたんです」
ずっと、誰にも言えなかったこと。
自分の中だけで膨らみ続けていた、重たい罪。
「……っ、私が、二人を……殺した、んです」
ずっと胸の奥に押し込めていた言葉だった。
自分の中で何度も繰り返してきた言葉。
それを、とうとう口にしてしまった。
涙が砂浜に落ちて、黒い染みを作っていく。
先生はすぐには何も言わなかった。
ただ、繋いだ手に力が込められたのを感じる。
しばらくして、先生が小さく息を吐いた。
「自惚れてるねぇ、」
「……え?」
先生は足を止めて、私の方へ向き直った。
「一人のわがままで、大人の……それも二人の人間の運命を全部コントロールできたと思ってんの? 君、そんなに全能だっけ」
目隠しの奥の視線が、私の心の奥を暴くように突き刺さる。
「……そんなつもりじゃ」
「言っとくけどさ。の両親が家に戻ったのは、君に言われたからじゃないよ」
繋いだ手を、先生が少し強く引いた。
顔を上げさせられるみたいに、そのまま覗き込まれた。
「大好きな娘を、悲しませたくなかったから。二人は自分たちの意志で、そうすることを選んだんだ。……誰に強制されたわけでもなくね」
(……自分たちの、意志……)
「手紙を忘れたのも、わがまま言ったのも、ただのきっかけに過ぎない。二人はね、死ぬ直前まで『お父さん』と『お母さん』でいたかったんだよ。……それって、親として最高に幸せなことだと思わない?」