第23章 「可惜夜に眠る 後編①」
お母さんが教室を出て行った後、私はミホちゃんのお母さんに手を引かれて、近くの高台にある公園まで必死に走った。
冷たい風の中で震えながら、街を見下ろして――
そこで、見たんだ。
ゴォォォォ……という、地鳴りみたいな音が響いていた。
風の音じゃない。
ものすごく大きな飛行機が、すぐ近くを飛んでいるみたいな、低くて嫌な音。
(……え?)
街の向こうに見える海が、おかしかった。
水が、見たこともないくらい遠くまで引いている。
海の底が剥き出しになっていて。
その向こう、水平線の向こうから――真っ黒な壁みたいなものが、信じられない速さでこっちへ向かってきていた。
『津波だ……津波が来たぞ!!』
周りの大人たちが、悲鳴みたいな声を上げる。
それは、私が知っている「海」なんかじゃなかった。
土も、泥も、根こそぎになった木も、全部を巻き込んだ真っ黒い塊。
防波堤なんて、あっという間に乗り越えてくる。
バキバキ、メシャッ……!
嫌な音が、高台のここまで聞こえてきた。
見慣れた道路が、お店が。
まるでおもちゃのブロックみたいに、真っ黒な水に押し潰されて、流されていく。
車が何台も浮いて、家の屋根にぶつかっていた。
黄色い砂埃みたいなものが舞い上がって、街がどんどん黒く塗り潰されていった。
『ああっ……! おばあちゃんが、まだ家にいるのに……!』
『戻っちゃだめ!! 戻ったら死ぬ!!』
『お父さーん!!』
泣き叫ぶ声が、耳にまとわりつく。
(お母さん……っ)
学校のある方も。
お家がある方も。
全部、真っ黒な水に飲み込まれていく。
『おかあさん!! おとうさん!!』
気づいた時には、叫びながら前に出ようとしていた。
ミホちゃんのお母さんの手を、必死に振りほどく。
『やだっ、行く! おかあさんっ……!』
『だめよ、ちゃん!!』
強い力で腕を引かれて、ぐいっと抱き寄せられる。
『離して!! おかあさんが……っ、おとうさんが、まだ……っ!!』
喉がひりひりするくらい叫んでも、返事はどこからも返ってこない。
手を伸ばした先は、もう黒い水と音にのまれていた。