第23章 「可惜夜に眠る 後編①」
「お父さんとお母さんに手紙を書いて、二人の前でそれを読み上げることになってて……」
目を閉じると、潮騒の音が遠のいて。
代わりに、ざわざわとした教室の空気と、あの日の匂いが蘇ってきた。
(……ない、ない……!)
授業参観が始まる直前の教室で、私はランドセルの中をぐちゃぐちゃにひっかき回していた。
教科書の間も、ノートの間も、筆箱の中まで見たのに。
昨日、夜遅くまで一生懸命書いた手紙が、どこにもない。
「ちゃん、どうしたの?」
隣の席のミホちゃんが、不思議そうに覗き込んでくる。
「お手紙……お家に、忘れちゃったかも」
「え!! もうすぐ授業始まっちゃうよ」
ミホちゃんが、目を丸くして口元を押さえる。
(どうしよう)
朝、お母さんに『忘れ物ない?』って聞かれたのに。
あんなに頑張って書いたのに。
慌てて後ろを振り返る。
教室の後ろには、もうお母さんが来てくれていた。
でも、お仕事から早退してくるはずのお父さんの姿は、まだなかった。
私は席を立って、お母さんのところへ駆け寄った。
『おかあさん……っ、お手紙、忘れちゃった』
『えっ? 机のお道具箱にもないの?』
『うん。……たぶん、お家の机の上……』
半泣きの私を見て、お母さんは困ったように笑って、頭を撫でてくれた。
『そっか。じゃあ、お父さんに電話して、来る途中に持っきてもらうようにお願いしてみるね』
そう言って、お母さんは廊下に出て、携帯で電話をかけてくれた。
私は教室の入り口で、落ち着かないままその背中を見つめていて。
少しして、お母さんが戻ってきた。
『お父さん、持ってきてくれるって』
『ほんと? よかったぁ……』
へなっと力が抜けるみたいに息をつくと、お母さんは私のおでこを指先で軽くつついた。
『もう、気をつけなさいよ、』
『……はぁい』
でも。
授業参観が始まっても、お父さんはなかなか現れなかった。