第23章 「可惜夜に眠る 後編Ⅰ」
「……せん、せい……っ」
「ほんっと、世話の焼ける子」
文句を言うような口調なのに。
私を抱きしめる腕の力は、さらに強くなった。
大きな手のひらが、私の背中を優しく撫でてくれる。
そのあたたかさが、服越しにじんわりと伝わってきた。
(……あったかい)
今まで、何度もこの手を振り払ってしまった。
掴んでしまったら、お父さんとお母さんを置いたまま、私だけがあたたかい場所へ行ってしまう気がして。
それが、どうしようもなく怖かった。
(……ちがう)
この手を掴むことは、お父さんとお母さんを置いていくことじゃない。
二人がくれたものを胸に抱いたまま、それでも前へ進んでいいんだって――今なら、ちゃんとわかる。
涙でぐしゃぐしゃになった顔を、先生の胸元からゆっくりと上げた。
「……ん?」
先生が、不思議そうに少しだけ腕の力を緩める。
その隙に、私は自分の手を伸ばした。
背中に添えられていた、先生の大きな手。
その長くて綺麗な指先を探り当てて、そっと触れる。
そして。
ぎゅっと、自分から両手で包み込むように握りしめた。
先生の手は、私の手よりずっと大きい。
少しだけひんやりしているのに、脈打つ熱がはっきりと感じられた。
「私……っ、もう、離したくない……っ」
しゃくり上げながら、伝えた言葉。
でも、これが今の私の精一杯の覚悟だから。
握った手に、もう一度力を込める。
先生は少しだけ黙って。
それから、空いている方の手で目隠しをわずかに持ち上げた。
覗いた蒼い瞳が、まっすぐに私を射抜く。
「僕は……最初から、を手放す気なんて、1ミリもなかったのに」
「う、せんせぇ……っ」
先生の指が、私の指の間にするりと滑り込む。
そのまま深く絡めて、ぎゅっと握り返してきた。
「よく、逃げずに僕のところまで来れました」
「待ってたよ。……頑張ったね、」
その言葉に、ずっと堪えていたものがほどけてしまって。
私はもう、泣くことしかできなかった。