第23章 「可惜夜に眠る 後編①」
「みんなみたいに呪力もないし、強くないし、体力もないし……っ」
「怖がりだし……泣き虫だし……っ」
頬を伝う涙が止まらない。
それでも、途切れそうになりながら、必死に言葉を押し出した。
「先生にも……ひどいこと言って、傷つけて……っ」
「……全然、向いてないかもしれないけど……っ!」
声が裏返って、しゃくり上げるような息が漏れる。
それでも。
逃げたまま、終わりたくない。
先生が何度も差し出してくれたその手を。
今度こそ、私から掴みたいから。
「私……っ」
涙で視界がぐしゃぐしゃに滲んでも。
目の前に立つ先生から、絶対に目を逸らしたくなかった。
「先生の隣で……ちゃんと、生きていきたいです……っ」
最後は、ほとんど叫ぶみたいな声だった。
静かな海沿いの道に、その声だけが痛いくらい響いて、波の音に溶けていく。
荒くなった呼吸を繰り返しながら、ただ先生だけを見た。
数歩先に立っていた先生が、ゆっくりこっちへ歩いてくる。
アスファルトを踏む足音が、ひとつ、またひとつ近づいて。
目の前で、止まった。
「……はぁ、遅いよ」
落ちてきたのは、呆れたみたいな大きなため息。
(あ……やっぱり、怒ってる)
慌てて涙を拭う。
でも、拭っても拭っても、また滲んでくる。
こんなことで、許してもらえるわけない。
あんなひどいこと言ったのに。
今さら「隣にいたい」なんて、都合よすぎるよね。
「ごめんなさ――」
そう言いかけた瞬間、ぐいっと強い力で腕を引かれた。
鼻先が、固い胸板にぶつかる。
「……っ」
背中に、大きな腕が回されて。
さっき廃ビルで受け止めてくれた時よりも、ずっと強くて、逃げ場のない力。
すっぽりと、先生の腕の中に閉じ込められた。
大好きな先生の香りが、一気に私を包み込む。
「やっと言えたね」
頭の上から降ってきた声は。
昨日の冷たさは、欠片もなくて。
甘くて、優しくて、どうしようもなくあたたかかった。