第23章 「可惜夜に眠る 後編①」
「これ、捨てに行って……それで……」
ぼろりと目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「カイザー……っ」
お姉さんは、上着ごと骨と首輪を両腕でぎゅっと抱きしめた。
そのまま、玄関の上にへたり込む。
「ごめんね……っ、私のために……ごめんねぇ……っ!」
声を出して、子供みたいに泣きじゃくるお姉さん。
その姿を見た瞬間、胸の奥がぎゅうっと痛んだ。
知らなければ抱えなくて済んだ痛みまで、私はお姉さんに渡してしまったのかもしれない。
それでも。
「呆れて逃げたんだ」って、自分を嫌いになったまま生きていくより。
痛くても。苦しくても。
こんなにも大事に想われていたんだって、知ってほしかった。
その愛された記憶を抱きしめることができれば、お姉さんはきっと、前を向いて生きていけるから。
それに、カイザーくんも――ずっと待っていてくれた大好きな家族のところへ、やっと帰ってこられたんだ。
(私も……いつか、お父さんとお母さんを――)
込み上げるものを飲み込んで、私は泣き崩れるお姉さんの背中にそっと手を伸ばした。
お姉さんが私にしてくれたみたいに。
「……」
ふいに、後ろから静かな声が降ってきた。
振り返ると、先生が立っていて。
「二人きりにさせてあげよう」
その言葉に、「……はい」と小さく頷いた。
骨を抱きしめて泣き続けるお姉さんの背中から、そっと手を離す。
立ち上がって、玄関を出ようとした、その時。
「……ちゃん」
涙で震える声に、足を止める。
振り返ると、お姉さんが顔をくしゃくしゃにして、私を見ていた。
「ありがとう。……カイザーを、送り届けてくれて」
ううん。こちらこそ、ありがとう。
お姉さんが、背中を押してくれたから。
私は今、逃げずにここに立っていられる。
言葉にするとまた泣いてしまいそうで。
ただ深く、深く頭を下げた。
お姉さんは腕の中の小さな骨と首輪を、もう一度ぎゅっと抱きしめる。
自分の頬をすり寄せるようにして、優しく囁いた。
「おかえり、カイザー」
そのあたたかい声を聞き届けて。
私たちは、静かにドアを閉めた。