第23章 「可惜夜に眠る 後編①」
(……言わない方が、いいのかもしれない)
本当のことを話したら。
お姉さんは、もっと自分を責めるかもしれない。
自分のせいで、カイザーくんが死んだんだって。
今よりもっと深く、傷ついてしまうかもしれない。
言葉が、喉の奥に重たく引っかかった。
でも。
『私が待っててあげないと、あの子、帰ってこれないじゃん』
今朝、笑ってそう言ったお姉さんの顔が浮かんだ。
三年間、自分を責めながらも。
それでも毎朝、帰ってくるかもしれないって、カイザーくんを待ち続けていた。
だったら、ちゃんと伝えなきゃいけない。
私が見た、あの子の記憶を。
「あの日、泣いてるお姉さんを見て……」
そこまで言って、涙がこぼれそうになる。
でも、私が先に泣いちゃダメだ。
小さく息を吸って、震えそうになる声をどうにか押し出した。
「カイザーくん、お姉さんを裏切った婚約者さんのものを、遠ざけたかったんだと思います。……もう、お姉さんに悲しんでほしくなかったから」
「え……」
お姉さんの唇が、かすかに震える。
「首輪が外れた時……そのネックレスを口にくわえて、家を出たんです」
「どこかに隠そうとして……たどり着いたのが、あの廃ビルで」
暗い瓦礫の中を、必死に歩いていた小さな背中が、また脳裏に浮かぶ。
「でも……」
「隠し終わって、家に戻ろうとした途中で……瓦礫が落ちてきて……っ」
静寂が、玄関に降りた。
お姉さんは、目を見開いたまま。
瞬きすら忘れたように、ただ私の顔を見つめていた。
「……私の、ために?」
私は、黙って深く頷いた。
「私を置いて逃げたんじゃ、なくて……」
お姉さんの視線が、ゆっくりネックレスに落ちる。
そして、その隣の泥だらけの首輪に。
白く乾いた、小さな骨に。