第23章 「可惜夜に眠る 後編①」
***
インターホンを鳴らすと、すぐに玄関のドアが開いた。
「あれ……ちゃん?」
部屋着姿のお姉さんが、顔を出す。
私の顔をのぞき込んだ後、何かを察したみたいに声をひそめた。
「あ……もしかして、ダメだったの?」
思いっきりぶつかってこい、と言って朝に送り出してくれた。
だから、私がフラれて帰ってきたのだと思ったみたい。
私は、ゆっくりと首を横に振った。
「……ちがいます」
首を振って、丸めた制服の上着をお姉さんに差し出した。
「お姉さんに、渡したいものがあって……来ました」
「渡したいもの?」
お姉さんが、不思議そうに瞬きをする。
そして、包んでいた上着の布をゆっくりと開いた。
中にあったのは――
白く乾いた、小さな動物の骨。
それから、泥に汚れた青い革の首輪。
「……え」
それを見た瞬間、お姉さんの動きがぴたりと止まった。
震える手が、ゆっくりと伸びて。
錆びついた迷子札に、そっと指先が触れた。
「……近くの、廃ビルの中で見つけました」
あふれそうになる涙を堪えて、まっすぐにお姉さんを見る。
「カイザーくん、お姉さんに呆れて逃げたわけじゃないです」
私はスカートのポケットから、もう一つ取り出した。
軽く泥を拭き取った、ダイヤのネックレス。
それを、上着の上に静かに置く。
「これ……婚約者が、昔くれたネックレス……っ」
お姉さんの目が、大きく見開かれた。
「カイザーくんの骨のすぐそばに、落ちていました」
「え……? なんで……」
お姉さんは、信じられないものを見るようにダイヤと、泥だらけの首輪を交互に見つめた。
「これ、あの日……私が、泣きながら投げ捨てたのに……」
お姉さんの掠れた声が、玄関の狭い空気の中に落ちる。