第23章 「可惜夜に眠る 後編①」
「……ツナマヨ」
ひどく掠れて、枯れた声。
痛々しいほど消耗しているはずなのに。
先輩は私に向かって、力強く親指を立てて笑ってくれた。
「さーて!」
先生が、ポンッと軽く手を叩いた。
「明日にはもう東京に帰るし。みんなよく頑張ったご褒美として……今日の夜は、僕の別荘で過ごしていいよ!」
「マジで!? よっしゃー!」
虎杖くんが、疲れも忘れたように両手を突き上げて喜ぶ。
「当然よね! ふかふかの高級ベッドで爆睡してやるわ!」
野薔薇ちゃんも、顔をぱっと輝かせた。
「ったく……。ほら、さっさと帰ろうぜ」
真希さんが、呪具を肩に担ぎ直して踵を返す。
パンダ先輩や伏黒くんたちも、それに続いて廃ビルの出口へと歩き出した。
コンクリートに響く足音が、段々遠ざかっていく。
「僕たちも帰ろう。……歩ける?」
先生の腕が、もう一度私の身体を支え直す。
返事をしようとしたけど。
さっき呪霊を送った時、一緒に流れ込んできた記憶。
暗い場所で、ひとり取り残されたままの、小さな気配。
(……まだ)
先生の腕から、そっと身体を離した。
「? どうしたの?」
先生が不思議そうに、少しだけ身をかがめて顔を覗き込んでくる。
私は階段の奥を見たまま、ゆっくり首を横に振った。
「……まだ、帰さなきゃいけない子がいるんです」
そう言って、崩れた瓦礫のそばへ近寄った。
膝をついて、そっと手を伸ばす。
瓦礫の隙間に残されていた、ちいさな痕跡。
それをひとつずつ拾い上げ、着ていた制服の上着で、大切に包んだ。
先生は何も聞かず、ただ黙ってそばにいてくれた。