第23章 「可惜夜に眠る 後編①」
床に咲いた花々が、ふわりと重力に逆らって宙へ舞い上がる。
無数の光の花びらが、空中でゆるやかに編み込まれていく。
幾重にも重なり合い、光の線を描きながら。
それは巨大で。
どこまでも美しい『光の花冠』になった。
頭上から私を叩き潰そうとしていた、巨大な呪霊。
そのおぞましい巨体を、光の輪が下から掬い上げるように包み込んだ。
『ギ……』
振り下ろされかけた太い腕が、空中でぴたりと止まる。
花冠からこぼれる光が、呪霊の体を覆っていく。
呪霊から溢れ出ていた悲鳴も。怒りも。
その光に触れるたび、少しずつ温度を落としていくのがわかった。
(痛かったよね……怖かったよね)
(大丈夫。……もう、怖がらなくていい)
心の中でそっと語りかけながら、大きな影を見上げた、その時。
ふわりと揺れた光の中に、小さな女の子の姿が重なって見えた気がした。
(……あ)
真っ暗な避難所の隅。
冷たい床の上で膝を抱えて、震えている女の子。
ひとりぼっちで、ずっと泣きじゃくっていた――八歳の、私だ。
あの日の私は、ずっとそこで止まったままだった。
泣いて。待って。
「いつか二人は戻ってくる」っていう希望を、握りしめたまま。
(……ごめんね)
(ずっと一人にしてたの、私だったね)
震えるあの日の小さな背中に。
そして、目の前で怯えながら迷っている無数の魂たちに。
ゆっくりと両手を差し出した。
そっと抱きしめるように。
深く、静かに息を吸い込んだ。
(……還ろう)
お母さんが教えてくれた、優しい祈り。
悠蓮が残した、千年前の記憶。
ふたつが重なって、言葉が自然に落ちてくる。
それは、静かに歌うような、古い言霊。
「――千代(ちよ)に結ばん、白き輪の」
「独り泣く夜(よ)を、光に還さむ」
紡いだ言葉が、空気を震わせた。
宙に浮かぶ無数の花びらが、声に呼応して眩い輝きを増していく。
輪の内側が、夜明けみたいに白く満ちて――
「――白華浄輪(はなかむり)」