第23章 「可惜夜に眠る 後編①」
『ギ……、アァァァァァァッ!!』
完成した巨大な呪霊が、鼓膜を破るような咆哮を上げた。
ビルの窓ガラスの残骸が、その音圧だけで粉々に吹き飛ぶ。
(……こんなの、送れるの?)
見上げるほどの巨体。
ビリビリと肌を刺すような、特級クラスの重たい呪力。
吹き荒れる風圧に、思わず目を閉じそうになる。
「! いけえええっ!!」
虎杖くんの叫び声。
両手を胸の前で、ぎゅっと強く組んだ。
足元から、冷たい恐怖が這い上がってきそうになる。
怖い。逃げたい。
このまま全部、投げ出してしまいたい。
(……でも、送るんだ。それで、みんなで生きて……)
(先生のところに、帰るんだ)
ぎゅっと目を閉じた、その時だった。
ふと、花の香りがした気がした。
あたたかくて、優しい、懐かしい匂い。
真っ暗な視界の裏に、浮かんでくる景色があった。
あたたかい日差し。
ちいさな公園。
お母さんが、シロツメクサを使って花冠を編んでいた――あの日。
『ほら、できた。、ちょっとこっち向いて』
『わぁ……!』
お母さんが、編み上がったばかりの白い花冠を私の頭に乗せてくれた。
それを見て、お父さんが目を細める。
『すっごく似合ってるぞ。可愛いな、』
『えへへ、ありがとう!』
褒められたのが嬉しくて、口元が勝手にゆるむ。
花冠を落とさないように、そっと自分の頭に触れる。
すると、お母さんが私の顔を覗き込むようにして、優しく微笑んだ。
『ねえ、。どうして花冠は、お花をまあるく繋げて作ると思う?』
『えっ?』
急な質問に、首を傾げる。
(……可愛いから?)
うーん、と少し悩んでから、隣に座るお父さんを見上げた。
『お父さん、わかる?』
『んー? 頭の上に載せるため?』
お父さんも不思議そうに首を捻る。
お母さんは「ふふっ」と笑って、私の髪をそっと撫でてくれた。
『昔の人はね。お空にいっちゃった大事な人に、花冠を作ってあげたんだよ』
『お空の人?』
『うん。残された人が、その人との思い出をひとつひとつ、花に込めて繋ぎ合わせて作ってあげるの』
お母さんの指が、私の頭に乗った白い花びらにそっと触れた。