第23章 「可惜夜に眠る 後編①」
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合宿最後の課題として連れてこられたのは、海沿いから少し離れた場所にある、大きな廃ビルだった。
コンクリートは黒ずんでいて、窓ガラスはほとんど割れている。
「あのバカ目隠しが言うには、ここの呪霊を全部祓えば終わりなんだよなぁ」
真希さんが呪具を肩に担ぎながら、面倒くさそうに息を吐いた。
「全員で取り組むってことは、相当数がいそうですね……」
伏黒くんが、廃ビルを見上げながら警戒するように目を細める。
虎杖くんも、両手で拳を鳴らしながら「よっしゃ、気合い入れていくか!」と気合いを入れた。
(合宿、最後の課題……)
自分の手のひらをそっと見つめた。
(みんなと、最後の任務になっちゃうのかな)
そんな考えが、勝手に頭をよぎって。
慌てて打ち消すみたいに、拳をぎゅっと握り込んだ。
「おい、一年! ボーッとしてんな、行くぞ!」
真希さんの声に、弾かれたように顔を上げた。
パンダ先輩も狗巻先輩も、すでに臨戦態勢に入っている。
「……はいっ!」
大きく返事をして、みんなの後に続く。
薄暗い廃ビルの入口へ――足を踏み入れた。
(……暗い)
ビルの中は、外から見るよりもずっと光が届いていなかった。
カビと埃の混ざったような、古いコンクリートの匂い。
見上げると、天井の一部が崩れて、鉄筋が剥き出しになっていた。
穴の向こうに、上の階の暗がりが見える。
パンダ先輩が、周囲をぐるりと見渡して鼻を鳴らした。
「確かに数は多いかもしれんが、いるのは大したことない低級だな」
隣で、狗巻先輩も「しゃけ」と小さく頷いた。
気配を探っていた伏黒くんも、特に焦った様子はない。
どうやら、すぐに命の危険があるような強い呪霊が潜んでいるわけではないみたいだ。
真希さんが、トンと呪具の柄で床を叩いた。
「じゃあ、それぞれ各フロアに分かれて祓うぞ」
みんなの視線が、真希さんに集まる。
「1階は私と野薔薇」
「2階は、恵と棘」
「3階は、パンダと」
パンダ先輩は私と目が合うと、にっと口元を上げて。
「よろしくな、」と言いながら、大きな手をひらりと上げた。