第23章 「可惜夜に眠る 後編Ⅰ」
あの冷たい海の底で、ずっと迷子になっているお父さんとお母さん。
「お父さん、お母さん……」
ゆっくりと足を止めて、両手を顔の前にかざした。
「私に、できるかな」
震える手のひらを、じっと見つめる。
(強くなりたい)
お姉さんみたいに。
虎杖くんみたいに。
真希さんみたいに。
そして――
いつかは、先生みたいに。
(……私も、前を向いていけるかな)
弱いまま、泣いたままでも。
足が震えていても。
それでも、少しずつ。
ふいに、お姉さんと硝子さんの言葉がよみがえる。
『ちゃんの、その大好きな人? ……ちゃんのこと、めちゃくちゃ好きだよ、それ』
『五条は、が思ってる以上に……お前に惚れてるよ』
(……先生)
胸の奥に溜まっていた息を、ゆっくり吐いた。
一度、二度。
手のひらを握り込んで、指先に力を集める。
(今はまだ、できないことばっかりだけど)
両手を下ろして、もう一度だけ海を見る。
朝の光を跳ね返して、きらきらしている。
怖いのに――少しだけ、昔のように綺麗だと思えた。
「……行ってきます」
そう小さく呟いて、もう一度走り出した。
合宿所へ。
みんながいる場所へ。
そして――差し出された手を、今度こそ掴みにいくために。