第23章 「可惜夜に眠る 後編①」
不意に、ジャージのポケットの中でスマホが震えた。
(……あっ)
ティッシュから顔を離して、慌ててスマホを取り出す。
涙で少しぼやけた画面に、メッセージの通知が光っていた。
送り主は、野薔薇ちゃん。
『今どこ? 朝ごはんの後、集合だって』
時計を見ると、もう朝ごはんの時間になっていた。
残っていた涙をぐしぐしと拭い去って、立ち上がった。
「あの、お姉さん」
「ん?」
「お茶、ごちそうさまでした。……それに、お話聞いてくれて、本当にありがとうございます」
深く頭を下げると、お姉さんは目を丸くして、それからふわりと優しく微笑んでくれた。
「がんばれ、恋する女の子」
その言葉に力強く頷いて、お姉さんの家を飛び出した。
来た道を、全速力で駆け戻る。
夏の生ぬるい風を切って坂道を上り切ると、再び視界が開けた。
遠くに、 朝の光を反射してキラキラと光る、大きな海。
ついさっきまでは、あんなに恐ろしくて、行き止まりの絶望みたいに見えていたのに。
『家族だもん。生きてても、死んでても。どんな形になっててもさ』
『私が待っててあげないと、あの子、帰ってこれないじゃん』
お姉さんの言葉が、頭の中に響く。
(傷つきたくなくて)
自分が一人ぼっちになる現実を認めるのが怖くて。
逃げて、逃げて、逃げ続けてきた。
本当は、そんなことでは何も守れないとわかっていたのに。
(今からでも、遅くないかな……)