第23章 「可惜夜に眠る 後編①」
「でもさ、わざわざ痛いところを突いて、本気でぶつかってきてくれる人なんて……」
お姉さんの手が止まって、まっすぐに私を見た。
「その人のこと、本当に大事に思ってないと、絶対にできないよ」
先生はあの時、一番触れられたくないところを抉ってきた。
『いつまで過去の亡霊に取り憑かれてんの?』
『自分の殻に閉じこもって、他人に理解されないって嘆いて』
あれは、私がいつまでもウジウジしてたからじゃなくて?
私を、ただの「かわいそうな子」として扱わずに。
間違った方向に進まないように?
(先生……っ)
もう一度、涙がこぼれ落ちる。
さっきまでの後悔とは違う。
あたたかくて、どうしようもない感情が押し寄せてくる。
両手でティッシュを握りしめたまま、小さく震えた。
「だからさ」
お姉さんが、私の背中をぽんっと叩いた。
「ちゃんも、その人に思いっきりぶつかってみたら?」
「……ぶつかる?」
ぐしゃぐしゃの顔を上げて、聞き返す。
「そう。自分の気持ちとか、ずっと抱えてきたこと、全部。その人なら、受け止めてくれるんじゃないかな」
お姉さんは、ふふっといたずらっぽく笑った。
「それで本当に呆れられちゃったら、またうちにおいで。一緒にやけ酒でもしよー!」
「朝までとことん付き合ってあげるから!」
からからと、明るい声が部屋に響く。
でも、お姉さんはすぐに「あ」と口元を押さえた。
「って、未成年はお酒飲んじゃダメじゃん!」
あちゃーと頭を抱えるその姿が、なんだかおかしくて。
「……ふ、ふふっ」
ティッシュを顔に押し当てたまま、思わず吹き出してしまった。
さっきまで、あんなに声を出して泣いていたのに。
こんなに自然に笑ったのは、久しぶりな気がした。