第23章 「可惜夜に眠る 後編①」
「ずっと辛い現実から、目を背けて生きてきて……っ」
ポロポロと、涙が溢れて止まらない。
拭おうともせずに、言葉を絞り出した。
「それで、大好きな人が……何度も手を差し伸べてくれたのに……私、つかめなくて……っ」
何度も私の前に差し出された、先生の大きくてあたたかい手。
自分の弱さを隠すために、私はその手すら拒絶してしまった。
「その人は、私に前を向かせようとしてくれてたのに……私、ひどいこと、言っちゃった」
自分が逃げるためだけに、最低な言葉をぶつけた。
「完全に……呆れられちゃったんです……っ」
声が震えて、最後はしゃくり上げるような泣き声になってしまった。
「わわっ、どうした! えっと、ティッシュ、ティッシュ……!」
お姉さんが慌てたように立ち上がって、箱ごとティッシュを差し出してきた。
次から次へと引き出されたティッシュの山が、私の膝の上にポンポンと乗せられていく。
「ずびっ……ひっぐ……ごめんなさ……っ」
ティッシュの山に顔を埋めて泣き続ける私の頭に、ぽんとあたたかい手が乗せられた。
「……まあ、男を見る目がない私が言うのも、なんだけどさ」
ゆっくりと髪を撫でられながら、頭の上から声が降ってくる。
「ちゃんの、その大好きな人? ……ちゃんのこと、めちゃくちゃ好きだよ、それ」
(……え?)
ティッシュから顔を上げて、涙でぼやけた視線をお姉さんに向ける。
だって、あんなに冷たく突き放されて。
もう呪術師をやめろって、言われたのに。
信じられなくて瞬きを繰り返す私を見て、お姉さんは小さく息を吐いた。
「普通さ、傷ついて泣いてる人には、慰める言葉を言うものじゃない」
「『それはあなたのせいじゃないよ』とか、『気にするな』とか、『気持ちわかるよ』とかさ」
「腫れ物に触れるみたいに、適当に優しい言葉だけをかけてさ」
たしかに、そうかもしれない。
優しい言葉で傷口を塞ぐのは、簡単だ。
震災以降、みんな私に気を使って。
おばあちゃんでさえ、私が壊れないように腫れ物みたいに扱っていた。