第23章 「可惜夜に眠る 後編①」
「だって……もし生きて帰ってきてくれたら嬉しいけど。でも……っ」
「……一番、最悪な結果に、なってるかもしれないのに」
口にするだけで、指先が冷たくなる。
それでも、お姉さんは怒ることもなく、静かにハーブティーを見つめた。
「正直、三年も帰ってこないってことはさ……事故にでも巻き込まれて、どっかで死んじゃってるのかなって毎日思う」
「私が、首輪をちゃんととめてたらって。……考えない日はないよ」
お姉さんはそんな最悪の想像を、毎朝、一人で抱えながら歩いているんだ。
(……“自分のせいかも”って思ってるのに。どうして、そこまでできるの?)
私が顔を上げたのがわかったのか、お姉さんはあっけらかんと笑った。
「でもさ、カイザーを待つのに、理由なんかいらないでしょ」
「……え?」
「家族だもん」
お姉さんの声は、少しも揺れていなかった。
「生きてても、死んでても。どんな形になっててもさ」
窓から差し込む朝の光が、お姉さんの顔を照らす。
「私が待っててあげないと、あの子、帰ってこれないじゃん」
そう言って、お姉さんはふわりと笑った。
(どんな形になってても)
(待っててあげないと、帰ってこれない)
私は、自分が傷つきたくないから。
現実を見るのが怖くて。
ずっと目を背けて、逃げ続けてきた。
お父さんとお母さんが、今もあの冷たい海の中にいるかもしれないのに。
家族なのに。
ちゃんと現実を受け入れて、「帰ってくる場所」を作って待ってあげることすら、私は放棄していたんだ。
じわっと、また視界が歪んだ。
慌ててうつむいた私を見て、お姉さんがパタパタと手を振る。
「あ、ごめんごめん! 私の話ばっかになっちゃったね」
お姉さんの明るい声に、首を横に振った。
マグカップを持つ手に、ぽた、と涙が落ちてくる。
「……わたし、は」