第23章 「可惜夜に眠る 後編①」
「カイザーの首輪、ちゃんと止めてなかったのか……家の敷地から、出てっちゃって」
「え……」
「必死に探したんだけどね。見つからなかった」
お姉さんの顔に、自分自身をあざ笑うような、ひどく悲しそうな笑みが浮かぶ。
「バカだよね。あんなことで動揺しちゃってさ」
「そんなこと……」
思わず、前のめりになって声を出していた。
お姉さんは寂しそうに首を振った。
「カイザーも、いつまでもメソメソしてる私に呆れて……逃げちゃったのかもね」
(……違う)
絶対に、そんなわけない。
あんなに優しく寄り添ってくれていたカイザーくんが、お姉さんに呆れるはずがない。
でも。
その「自分の弱さのせいで大切な存在を失った」「自分に呆れて離れていったんだ」と激しく自分を責める姿が。
あまりにも、今の自分と重なってしまう。
膝の上でぎゅっと拳を握りしめたまま、お姉さんにかける言葉を見つけられなかった。
「だからね」
沈黙を破るように、お姉さんがゆっくりと口を開いた。
スマホの画面をそっとオフにして、テーブルの上に置く。
「いなくなってからのこの三年間、毎朝カイザーとの散歩道を歩いてるんだ」
「三年間も……」
「もしかしたら、ひょっこり帰ってくるんじゃないかってね」
お姉さんは、照れ隠しみたいに少しだけ笑った。
「そんな時に、ちゃんに出会ったってわけ」
(帰ってくるかも、って……)
その言葉が、心の中にすとんと落ちてきた。
失ってしまった大切なものを、今でも探し続けている。
淡くて、でも絶対に捨てられない希望。
それは。
私が両親に対して、ずっと手放せずにいたものと全く同じだった。
(……いや、同じじゃない)
私は目を背けて、逃げ続けてきた。
誰にも言えなくて、自分でも認めるのが怖かったから。
なのに、この人は違う。
自分を責めながらも、逃げずに毎朝ちゃんと自分の足で探しに行っている。
「……怖く、ないんですか」
思わず、そんな言葉が口をついて出ていた。