第23章 「可惜夜に眠る 後編①」
(……どうやって、ここまで来たんだっけ)
気づいたときには、見ず知らずのお姉さんの部屋のソファに座っていた。
外はすっかり明るくなっていて、窓からは眩しい朝の光が差し込んでいる。
泣き喚いて、涙も出なくなるくらい泣き疲れて。
足元がふらふらで、されるがままに手を引かれて歩いたことしか覚えていない。
テーブルの上のティッシュを何枚か引き抜いて、鼻をかむ。
泣き腫らした目は熱を持っていて痛いし、きっと顔もひどいことになっているはずだ。
「はい、カモミールティー」
目の前のローテーブルに、湯気の立つマグカップが置かれた。
「熱いから、ゆっくり飲んでね」
向かい側に座ったお姉さんが、少しだけ眉を下げて微笑む。
マグカップから、ふんわりと甘くて優しい香りがした。
「落ち着いた?」
その問いかけに、小さく頷いた。
「……よかった」
お姉さんがほっと息を吐く。
それから、少しだけ言いづらそうに唇を開いた。
「名前、聞いてもいい? 高校生?」
「……はい。、です」
お姉さんは私の返事を聞いて、ふわっと口元を緩めた。
「すみません、急に泣き出したりして……」
掠れた声で謝ると、お姉さんは「ううん」と首を振った。
「びっくりしたけど、大丈夫だよ。それに、あんなに泣いてる子を道端に置いていけないしね」
(……優しい人だな)
名前も知らない私を、自分の家に上げて。
お茶まで淹れてくれて。
なのに、私は名前すら聞けていない。
聞く余裕もなかったし、聞いていいのかもわからなかった。
両手でマグカップを包み込むように持つ。
指先から、じんわりとした温かさが伝わってきた。
マグカップの中の琥珀色の液体を、ぼんやりと見つめる。
「……あの、飴」
一度息を吸ってから、続けた。
「嫌いなわけじゃ、ないんです」
「えっ?」
「ただ……あの色が」
言葉が、途切れる。
自分でも、どう続けるつもりだったのかわからない。
(……大好きな人の、目と同じ色だったから)
それを口にした瞬間、また泣いてしまう気がした。
「あ……」
不意に、お姉さんが小さく声を上げた。
そして、少しだけ申し訳なさそうに私の顔を覗き込んでくる。