第22章 「可惜夜に眠る 中編**」
「……あー、もう」
頭上から、少しイラついた声が降ってきた。
見上げると、先生はガシガシと乱暴に頭を掻いていて。
そして、目隠しを外して、私を見た。
「いつまで過去の亡霊に取り憑かれてんの?」
「のせいであろうと、なかろうと……君の両親は、死んだんだよ。それが事実」
先生はわざとらしく、ひどく冷酷な響きで言葉を続けた。
「かわいそ、のお父さんとお母さん」
「娘がこんなんじゃ、いつまで経っても海で溺れたままだね」
(……っ!)
心の底に沈めて、見ないふりをして。
触れられないように、誰にも見られないように。
ずっと、蓋をしていたのに。
必死に押さえつけていたものが、先生のその一言でせり上がってくる。
「先生に、わかるわけない……っ」
自分でも驚くほど、大きい声だった。
「あー、わかるわけないよ。他人の悲しみなんて」
「だったら、もうほっといてくださいよっ」
視界が涙で滲んで、見下ろしてくる先生の顔が歪む。
「そんな簡単に、割り切れるわけないじゃないですか! 私は、先生みたいに強くない……っ」
ただ自分が弱いだけだって、わかってる。
それでも、無理やりこじ開けようとする先生に、抗わずにはいられなかった。
「……へえ。で? 割り切れないから、悠仁が死にかけても仕方ないって?」
「っ……そんなこと、言ってない」
「言ってるのと同じでしょ。過去を言い訳にして、現実から目を背けてる」
「ちがっ……!」
「自分の殻に閉じこもって、他人に理解されないって嘆いて。悲劇のヒロイン気取り? そうやって自分を哀れんでれば楽だもんね」
分かってるよ。
そんなの、自分が一番。
(先生に言われなくたって……)
現実を受け入れて、前を向かなきゃって。
でも、できないの。
どうしていいかわからないの。
ぐっと奥歯を噛んで、目の前の先生をまっすぐ睨み返した。
「じゃあ、先生は……」
その言葉が喉まで上がってきた瞬間、頭のどこかが遅れて警報を鳴らす。
(言っちゃだめ……これは、言っちゃだめなのに)
でも、口が勝手に動いていた。