第22章 「可惜夜に眠る 中編**」
廊下の向こうで、誰かが走る足音。
先生たちがヘルメットを配って、声を張って避難を誘導している。
ざわざわした空気の中で、みんなの顔が青白く見えた。
『、先に避難所へ行きなさい』
『お母さんは、お父さんの様子を見てくるから――』
家に帰ろうとするお母さんの手を、両手でぎゅっと握りしめた。
『やだ、一人にしないで! わたしも行く!』
『地震はもうおさまったから大丈夫よ……でもね、津波が来るかもしれないの。だから、ミホちゃんと一緒に高台の避難所へ行ってて』
『でも……っ』
『あ、ミホちゃんママ。ちょっと、家の様子見てくるから、も一緒に避難所連れてってもらえます?』
私の肩を抱き寄せて、お母さんは友達のミホちゃんのお母さんに声をかけた。
そして、私と同じ目線にかがみ込んで、にっこりと笑う。
『すぐお父さん連れて戻るから、いい子で待っててね』
……「いい子」って、なに。
その時の私は、そんなことばかり考えていた気がする。
いい子でいたら、二人とも戻ってくるの?
握りしめていた手から、あたたかい温度が抜けていく。
(行かないで)
伸ばした手は空を切る。
私に背を向けて、教室の外へ走っていく姿。
それが、お母さんを見た最後だった。
『ちゃん、おばさんと行きましょ』
ミホちゃんのお母さんの手が、私の手首を掴んだ。
『お母さん……!』
私が叫んだ声は聞こえてたのかな。
サイレンと人の声に飲まれて、届いてなかったかもしれない。
私が手を離さなければ、ずっと一緒に過ごせた?
(……ううん、違う)
お父さんだって。
そもそも私が『あんなこと』を言わなければ、家に戻る必要なんてなかったのに。
私が、二人を家に向かわせたから……
「……?」
先生の声で、ハッと現実に引き戻される。
「……っ……」
口に出してしまったら、二人が亡くなった事実が知られてしまう。
先生に。
おばあちゃんに。
みんなに。
そして……
自分がそのことを、受け入れられるの?
(……怖いよ、言えないよ)
また視線を落として、きつく唇を噛み締めた。