第22章 「可惜夜に眠る 中編**」
差し出されたその手のひらを、ただ見つめることしかできなかった。
掴めば、この泥の中から引き上げてもらえる。
いつものように、あたたかい先生の隣に帰ることができる。
帰って、みんながいて。
「大丈夫」って言われて、笑って――
(……それで、いいの?)
泥だらけの両手で、自分の膝をきつく掴んだ。
「虎杖くんの怪我……」
掠れた声で、なんとか言葉を絞り出す。
「私のせいなんです」
涙が地面に落ちて、黒いシミを作った。
一滴、また一滴。
泥に吸われて、すぐに形が崩れていく。
「私が……っ」
そこから先が、どうしても続かない。
頭の中にあるのは、言い訳ばかりだ。
この下に眠っている魂に、両親を重ねてしまった。
花が輪にならなかった。
力が、出なかった。
でも、それを口にした瞬間。
「任務より自分の感情を優先しました」って告白するみたいで。
(言えない。こんなの……呪術師失格だ)
唇を噛んで、これ以上泣かないようにするだけで精一杯だった。
「……言えない?」
先生の声が低く落ちる。
「じゃあ、僕が言うね」
「送れなかったんでしょ……いや」
少しだけ言葉を切って、淡々と続けた。
「『送らなかった』って言う方があってる?」
図星を突かれた衝撃に、言葉ひとつ返せない。
ただ膝を強く握りしめることしかできなかった。
目の前に差し出されていた手がゆっくりと下ろされ、先生は私の前にしゃがみ込んだ。
泥の匂いの中に、先生の匂いが混ざってくる。
いつもなら落ち着くはずのそれが、今は息苦しい。
責められているわけじゃない。
怒鳴られてもいない。
でも――
私の内側にある弱い感情を、一枚残らず剥がして覗き込まれているような圧があった。
「……この下にいる魂に、両親を重ねた?」
そう言って、先生は地面へと視線を落とした。