第22章 「可惜夜に眠る 中編**」
バチュンッ……!!
鼓膜が破れるかと思うほどの、凄まじい轟音が響いた。
押し潰される。
そう思ったのに、痛みも衝撃もない。
恐る恐る、きつく瞑っていた目を開けた。
さっきまで私を押し潰そうとしていた、見上げるほど巨大な肉塊。
それが、上半身から丸ごと綺麗に消し飛んでいた。
残った下半身も、原型を留めずに赤茶けた泥の中へ崩れ落ちていく。
(……たすかったの?)
重く淀んでいた空気を切り裂いて、強い突風が吹き抜けた。
舞い上がった土煙が渦を巻くと同時に、腐ったような悪臭と、生臭い血の匂いが一瞬でかき消される。
そして、土煙が晴れた向こう側に一つの影が――
「邪魔。泥は大人しく泥の下で寝てなよ」
ぬかるんだ泥の上に、靴の裏すら汚すことなく。
先生が立っていた。
目隠しをしているから、表情はわからない。
でも、その顔が一切笑っていないことだけは、肌を刺すような冷たい空気で理解できた。
頭上を覆っていた青黒い空が、溶けるように消えていく。
帳が解除されたんだ。
先生は私には見向きもせず、まっすぐ虎杖くんの方へと歩いていった。
「うっわ、痛そ〜」
いつもの、飄々とした声。
虎杖くんの血まみれの足元を見下ろして、先生がわざとらしく顔をしかめる。
虎杖くんは泥だらけの顔を上げて、眉を下げて笑った。
「ごめん、先生。しくった……」
「ま、よくやったほうでしょ。直前に呪力で強化してなかったら、膝から下ごと綺麗に吹き飛んでたね。咄嗟の判断と反射神経は及第点だけど、呪力出力がまだ少し雑かなー。もっとこう、打撃の瞬間に……」
「悪いけど説教は後で聞くから、とりあえず病院連れてってくれねーか! いっっっでぇ!」
「あはは、ごめんごめん」
痛がる虎杖くんを前に、先生は悪びれもせず軽く手を振っている。
私は泥の上に座り込んだまま、息の仕方を思い出すみたいに肩を震わせた。